2016年8月5日金曜日

腐儒の言語学(84) 自閉症者と言語




Q.自閉症の人達はなぜ筆談ができるのに、声に出して話すことができないのですか? 


A.「自閉症」は、脳の障害に起因する、多様な症状の「コミュニケーション・認知・情報処理」障害です。

言語について言えば、まったくコトバをもたないものから、普通に会話できるものまで、さまざまです。

文字言語をもち、音声言語をもたないタイプも、その中にはあります。 

 この場合、頭の中に[音韻(音のイメージ)]:[語彙][文法]の言語の基本要素は具わっています。

そして、[音韻]を[文字]に[変換]して、[手]で[図形]を[書く]ことはできます。しかし、[音韻]を[音声(実際の音)]として実現するところに問題があると考えられます。 

 [音声]をつくるには、

①呼気
②声帯の振動
③下あごの位置
④口の形
⑤舌の位置
⑥舌の動き

…など異なる部位を、同時にコントロールしなければなりません。

いろんな動きをまとめあげた「統合運動」です。

健常者は、これを「無自覚」に行いますので、脳の中に「一連の身体の動き」として完全にセットしてあると考えられます。

もしも、「一連の身体の動き」をセットする部分(小脳・大脳運動野など)や、伝達経路に問題があれば、その実現は困難となります。身体を動かそうとしても、動かない状況が生じます。 


 例えば、何かの心理的または物理的なショックをうけると、体が動かない、声が出ない、などの体験をすることがあります。それと同じその状況に、つねにおかれている状態と推測することができます。 

 また、われわれが、音声体系の異なる外国語を、(訓練なしに)正確に朗読(音声化)しようとすると、その音声をつくる統合運動セットがないので、日本語のように「無自覚」にはできません。

「考えながら、つっかえながら、ゆっくりなのに間違えながら」読むことになります。

当然ですが、意のままにならないことに、たいへんストレスを感じます。この場合、その外国語を文字言語として、書いて・理解する方が、かなり楽です。

彼らのおかれている状況は、より苛酷ですが、文字言語の方が音声言語より容易であるメカニズムはそれと類似すると推測されます。 

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